アントニイ・バージェス:著 乾信一郎:訳 ハヤカワepi文庫
スタンリー・キューブリック監督の問題作「時計じかけのオレンジ」
それには、小説版がある。
あらすじは映画版とほぼ一緒であるが、最終章があるのと、所々細かい描写が異なる。一番の違いは、映画がアレックスに”超暴力”の衝動が戻って来たと所で終わっているのに対して、小説版は街の不良少年に戻ったアレックスのその後が描かれている。
元々、アントニイ・バージスの小説は、全21章からなる。しかし、キューブリック監督による、映画は最終章をカットしている。
その最終章が、あるかないかで物語の印象が、大きく異なっている。
アレックスのその後物語
劇中アレックスは、3人の不良仲間と共にグループを作っていた。
ディム、ジョージ―、ポール、の三人だ。ディムは悪徳警官となりアレックスを小突きまわし、ジョージ―は、盗みに入った先で家主に抵抗にあい殺された。映画ではそれで終わりで、もう一人については語られていない。
小説版では、その最後の一人のピーターにも触れられている。最終章で街の不良少年に戻ったアレックス。新たなグループを作り、昔のようにやりたい放題やっているが、何故か心は満たされない。
そんなある日、アレックスは、かつての仲間だったピーターと再会する。
スーツを着て口ひげを生やした、すっかり紳士風の見た目になったピーターは、同じく上品な恰好をした女性を連れていた。その上品な女性は妻で、新しく住居に引っ越してきたところだと説明する。
街の不良少年に戻り、奇妙な言葉を使い続けるアレックスに対し、ピーターとその奥方は、大人らしい、如才のない態度で接する。
かつての不良仲間が、すっかり大人の男性となっていて面食らうアレックス。そんな風に、ピーターと別れた後で、アレックスは、ある事に気づく。
自分は大人になりかけている。
さらに、アレックスは、自分が父親になり、もしも男の子を授かったらと想像する。もし、自分に男のがいたら、その子も思春期に不良になり、女の子に酷い事をするかもしれない。
それに対して、自分は彼を助けることも、止める事もしないだろうと。そしてそういった事は、世界の終りまでぐるぐる続くだろうという事を、なんとなく理解してしまう。全ては、ただの繰り返しだと。
だが、ただ一つ言える事は、まずは男の子を産んでくれる、母親になってくれる女を探すことにしよう、それはきっとナイスでやりがいのある事だと。
そこでこの物語は、終わっている。
そこが、この小説版と、映画の一番大きな違いである。
最終章が加わった事で映画版とは、かなりイメージが違っている。
なんだか、よくある「若気の至り」の物語の様に感じてしまう。こんな終わり方だったら、映画のように問題作扱いはされなかっただろう。
本当に短い最終章なんだが、それがあるばかりに、ここまで大きく印象が違うのが新鮮だった。
その辺りに興味のある人は、ぜひ読んでみて欲しい。
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