今回紹介する作品は「クロール-凶暴領域-」です。
先日10月11日より劇場公開が始まったので早速観てきました。
「ハウス・シャーク」に引き続き、「思い出の我が家でモンスターに襲われる」、”イリエワニ”ではなく“家でワニ”な映画です。
さらにはアサイラムの「サメ×トルネード」=「シャークネード」に対するハリウッドのアンサー作品である。
製作に「ドント・ブリーズ」のサム・ライミ、監督に「ハイテンション」「ヒルズ・ハブ・アイズ」のアレクサンドル・アジャが名を連ねている。
ホラー映画ファンとしては、期待の持てる製作陣である。
個人的な感想だが、上質なポッポコーンムービーかと思ったら、社会風刺として機能していてビックリした。
目次
作品情報・スタッフ・キャスト
「クロール-凶暴領域-」
・製作年:2019年
・製作国:アメリカ
・上映時間:88分
・原題:「Crawl」
・監督:アレクサンドル・アジャ
・製作:サム・ライミ ・製作総指揮:ジャスティン・バーシュ
・脚本:マイケル・ラスムッセン ・音楽:マックス・アル―ジ ・撮影:マキシム・アレクサンドル
・出演:カヤ・スコデラリオ/バリー・ペッパー/アンソン・ブーン/ホセ・パルマ/ジョージ・ソムナー/エイミー・メトカーフ/モリファイド・クラーク/アナマリア・セルダ/サヴァンナ・スタイン……etc.
予告編
「クロール-凶暴領域-」:あらすじ
ヘイラ―・ケリー(カヤ・スコデラリオ)は、フロリダ大学の開催された水泳選手権に参加する。大会を終えたヘイリーに、姉のべスからフロリダ州にカテゴリー5のハリケーンが迫っている事、フロリダに住んでいる父親のデイヴ(バリー・ペッパー)と連絡が取れない事を伝えられる。
ヘイラ―は、父親のデイヴの様子を見るために、当局の発する避難勧告を無視して出かける。しかし、アパートにデイブの姿はなく、愛犬のシュガーがいるだけだった。シュガーを伴いヘイラ―は昔住んでいた家に向かう。
はたしてデイブの車はそこにあった。ベスにメールした後、デイブを探して家に入るヘイリー。デイブを探しに家の地下に入ったヘイリーの前に、巨大なワニがあらわれて……。
”愛犬シュガー”である。アレクサンドル・アジャ監督が「ハイテンション」や「ヒルズ・ハブ・アイズ」で、犬をどう描いた知ってるから嫌な予感しかしない。
ついでに「新アリゲーター 新種襲来」「パニック・マーケット」「ゾンビーバー」と、この手の映画に犬が出てくる事自体死亡フラグである。
シュガー<「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ……」
シュガーちゃん逃げて!~、全力で逃げて!!
「クロール-凶暴領域-」:感想/ネタバレ有
さて、久しぶりにワニ映画に大作が生まれた。劇場公開作品である。
ワニ映画の紹介に「サメは水から出れば追ってこないが、ワニは陸地もいけるから怖い」みたいな文面をよく見ます。
管理人は、アサイラム映画の観すぎで、一瞬「?」となります。
「あれ?サメって陸地とか空とかいけんじゃん?」(;´・ω・)?
「思い出の我が家でモンスターに襲われる」アイデアはもうすでに「ハウス・シャーク」で消費済みである。ところで、日本の一部の地域では、「鮫」のことを「ワニ」という。
あれ?、「ハウス・シャーク」のハリウッドリメイク……?
いや、すみません。台風が来ると気圧の影響で頭がちょっとバグるんで……。
アホな話は置いて、映画の感想に行きたいと思います。
まだ、公開直後ななんで、先ずはネタバレしない感じで。
(B級ホラーにネタバレもクソもない気がしますが……爆破オチ熱烈歓迎!希望!)
昔懐かしの、クラシックスタイルのホラー映画。
よくも悪くも今風のハリウッドホラー作品。
「強いヒロインの活躍をベースに、怪物をリアルなCGで描き、父と娘のメロドラマ要素で味付け、ただし、オッパイは出さない」と、いった最近のホラー作品である。
この手のモンスター・パニック映画としては、かなり出来がいい。テンポよく話が進み、CGの出来もよく、ワニも出し惜しみせず、さらにグロ・ゴア描写も程よいという、ホラー映画のお手本みたいな作品である。
ワニとの格闘シーンが、地下、家の外、階段、バスルーム、二階と移動しながら展開していくため、シュチュエーションの変化があり、飽きがこないのもポイントが高い。
予告編でも使われているが、バスルームのシーンは面白かった。
なによりも、シュガーちゃんは生き残れるのか? その辺のドキドキが面白かった。
ただし、ヒロインとその親父が「それ、普通なら死んでね?」と言いたくなるほどタフなんで、その辺はツッコみたい。
今風の味付けなんだが、映像表現・演出自体は70年代、80年代の昔懐かしのホラー映画で、観ていてノスタルジーを覚える。具体的には、ジャンプスケアやネガティブスペースを多用した、クラシックスタイルである。
全体的にかなり高い所でまとまっているため、安心して観ていられる。
本作は、安定して高い所でまとまっている。しかし、監督のアレクサンドル・アジャは、エログロを撮りながらも決してやり過ぎずに、ちゃんと「表現」をやれる人なんで、本作は、過去の作品に比べると大人しい印象を受ける。
「ヒルズ・ハブ・アイズ」や「ピラニア3D」ほどのインパクトはない。よくも悪くもR-12のマイルドな作品なんで、観ていてそれほど印象に残る感じではない、というのが正直な感想だ。
ここ数年、ハリウッドはエログロに対してかなり厳しくなっているんで、もう面白いホラー作品は出てこないかもしれない。
よくも悪くも「ここまではやっていい」という表現のリフレインになっているから、観ていて「うわぁ…勘弁してくれよ…」と思うようなシーンもないし、ブラックジョークも皆無だった。
こっちの方が厳しいと、ホラーが得意な監督はやりづらいだろうなぁー。
まとめ。
今時珍しいクラシックスタイルのホラー作品でよく出来ていたが、監督の他作品に比べると、ワンランク落ちるのが正直な感想です。
ファミリーやカップルでも観れそうなエンタメ作品としては、高評価だが、ホラー映画ファンには微妙なんじゃないかな?
ネタバレ有/ワニの出てくる社会風刺映画。
さて、今からいう事は、長期にわたってサメ映画分を大量に摂取した人間の戯言なんで話半分に聞くように。
アレクサンドル・アジャ監督の撮るモンスター映画は、隠れたテーマとして「サバービアへの侵入者」というのがあり、それはスピルバーグの「ジョーズ」にならっているのだろう。
「サバービアへの侵入者と、それによっておこる殺人=社会秩序の崩壊」が毎回「これでもか!」と描かれている。
「アメリカ」と聞いて僕らがイメージするような、サバービアに住んでいる、幸せなアメリカ中産階級。
「綺麗に刈られた芝生の庭付き一戸建て、ガレージの壁には工具はぎっしり並んでまるで“男の秘密基地“。仕事は順調、夫婦仲もよく、反抗期の子供たちは憎まれ口を叩くけど両親を尊敬している。家族は皆スポーツマンで、犬を飼っている。マイカーを持ち、休日には隣人とホームパーティー」、そういった「幸せなアメリカ中産階級」のイメージでぎっしり固められた家族が、主人公一家の特徴である。
そういった「幸せなアメリカ中産階級」が、悪意のある侵入者=怪物によって崩壊していく様が「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ピラニア3D」に引き続き描かれているのだ。
この「サバービアの住人」というのは、しばし「恐ろしく均一性の高い集団」のメタファーとして描かれており、アレクサンドル・アジャ監督が、怪物映画において、キャストにほぼ白人俳優しか使わない理由がそれである、と管理人は推理している。
動画配信サイトを契約している人は「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ピラニア3D」を観賞して欲しい。特に「ピラニア3D」に関しては、画面を埋め尽くすバカ騒ぎをしている若者集団の、99%が白人俳優であり、ハリウッドの放送コード的に、本来なら“ありえない“のがよく分かるから。
ついでに、その若者たちが皆、女の子はボンキュッボンで、野郎どもは逆三角形のマッチョという、これまた「均一性」が恐ろしく高い集団だからね。よくもまぁ、こんなに美男美女ばっかり集めたもんだ。
撮影はさぞ楽しかったでしょうね……。
(※「ピラニア3D」に関しては、メインキャストに一人黒人さんがいる)
そして、それは僕らが、ハリウッドスターに抱いているステレオタイプのイメージそのものである。
さらに「ヒルズ・ハブ・アイズ」では、引退した老夫婦と、長女夫婦とその娘、次女と長男といった家族構成だったのが、「ピラニア3D」ではシングルマザーと三人の子供になり、本作では独立した娘二人と離婚した両親というように、家族の人数がどんどん減っているのである。
なにより、本作では「離婚」していて、家族が崩壊しているのである。
本作に至っては、幸せなアメリカ中産階級のアイコンが、最初から破壊されているのである。
また「ピラニア3D」では、まさに“大量虐殺”と呼びたくなるほど犠牲者がいたが、本作「クロール-凶暴領域-」では、ほとんど登場人物が出てこない。
(出てくる登場人物は、今回も皆白人である)
これは、アメリカ中産階級がいつの間にか息をしていないという、社会風刺なんじゃないだろうか?
ついでに、小説や映画において、「父親」=「国家」であり、「警察官」=「秩序・モラル」、として描かれている事が多い。
その父親が、「地下室で大けがをして疲れ果てている」のも、警察官とその持ち物(銃&無線機)が、本作でどのように描かれていたかと考えると、「中産階級は消滅し、国家はそれに対して効果的な対策を打ち出せず、秩序やモラルは失われていく」というメッセージとしてとらえることができる。
↑上のようなメッセージをこの映画から読み取った時、僕は非常に怖くなった。そういった「中産階級の消滅」が起こっているのは、アメリカだけではなく、全ての先進国で起こっていることであり、そのまんま日本にも当てはまるからだ。
そうなってくると本作の原題である「Crawl」も違う意味に見えてくる。泳ぎ方の”クロール”と、英語の「腹ばいになって進む」のダブルミーニングなんだろうが、はたして腹ばいになって、地面を”じたばた”しているのは誰なのか?
ちょっと、違う意味に見えてこないか?
ワニ映画に見せかけて、こんな古典的な風刺を試みる表現者がいることに対して、ちょっと感動してしまった。
アレクサンドル・アジャが、スポンサーと、「えっ!!エログロなしでホラー映画を!?」「できらぁ!」となったかは知らないが、よく出来た今風のホラー映画と同時に、一流の社会風刺作品に仕上がっている。
さて、珍しく真面目な事を書いてしまったが、おっぱいが観られなかった事に対する禁断症状ではない。
「あ、この映画オッパイは期待できないな」と悟ってから、賢者モードだったわけでは、決してない。
「ピラニア3D」は、無理してでも、映画館で3Dで観るべきだったと思ってなんかいないからね!
まぁ、そんなわけで、ワニ映画としてよく出来てるから、ぜひとも映画館に足を運んでください。
総評・感想まとめ
総評:♡♡♡♡♡♡♡ 7/10
●キャラクター………〇
・恐ろしくタフな父娘がメイン。モブは清々しいまでにモブ。
・「サバービアに住むアメリカ中産階級の白人一家」のアイコンである。
●ストーリー………◎
・一見すると今風のホラー作品である。
・ドラマパートも丁寧に作っており、「起承転結」がちゃんとある。
●カメラ・演出とう………〇
・昔懐かしのクラシックスタイルのホラー作品。
・ジャンプスケアやネガティブスぺ―スの多用といった、昔ながらの撮り方。
●怪物……◎
・CGの出来はいい。造形動きともにリアルだがあんまり怖くない。出番は多い。
・↑出来がいいと、かえってただの野生動物に見えてしまい恐怖が薄れる。
●その他・印象に残ったところ
・相変わらず音楽が印象的に使われている。
・↑これが一昔前の懐メロなのが、また、何とも言えない。
・オッパイは出てこない。
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