本日紹介するのは「運び屋」です。
実際にあった事件を下書きに、90歳過ぎの爺さんが、ひょんなことから麻薬の運び屋に仕立て上げられていく映画。クライムサスペンス映画というよりは、ヒューマンドラマである。家族に関わってこなかった男が「言葉」ではなく「行動」で信念を証明する映画。
イーストウッドが、カラオケとお姉ちゃんの尻でハッスルする映画である。
目次
作品情報・スタッフ・キャスト
「運び屋」
・製作年:2018年 ・製作国:アメリカ ・上映時間:116分
・原題:The Mule
・監督:クリント・イーストウッド
・脚本:ニック・シェンク
・撮影:イヴ・ベランジェ
・音楽:アルトゥロ・サンドヴァル
・出演:クリント・イーストウッド/ブラッドリー・クーパー/ローレンス・フィッシュバーン/マイケル・ペーニャ/ダイアン・ウィースト/アンディ・ガルシア/アリソン・イーストウッド/タイッサ・ファーミガ/イグナシオ・セリッチオ……etc.
予告編
「運び屋」:あらすじ
「アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、金銭的に行き詰まり、家族とも疎遠になりながら孤独に暮らしていた。ひょんなことから麻薬の運び屋となった彼は、麻薬取締局のコリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)に追われながらも、家族との絆を修復しようと四苦八苦する……」
本作の主人公は、わずか一日しか咲かないユリ科の花、「デイリリー」の栽培に一生をささげた男アール(クリント・イーストウッド)。常に仕事優先、デイリリーの品評会と娘の結婚式なら、迷わず品評会を優先する、そんな人生。
案の定、家族には愛想をつかされて離婚。自分の人生を捧げた農場も、インターネット時代の到来のせいで、注文をライバルに取られてしまい閉鎖。
閉鎖された農場の「差し押さえ・立ち入りを禁ず」の看板を、憎々しげに眺めるところから物語はスタートする。
寂しさを紛らわすために立ち寄った孫娘の家。そこでは、孫娘の結婚に先立ち、友人たちのささやかなパーティーが行われていた。
家族で唯一味方してくれる孫娘。しかし、再開した元妻と娘と言い争いになり、いたたまれなくなり退散。孫娘の結婚を祝う金もない。
そんなアールに、パーティー会場から抜け出してきた若い男が話しかけてくる。その若いにーちゃんの紹介で始めた仕事は、なんと麻薬の「運び屋」
かくして、爺さんは麻薬組織の「運び屋」を務めることとなる。
そんな「タタ(爺さん)」を、麻薬取締官のコリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)が率いるチームが追っかけてきて……という展開。
わき役でローレンス・フィッシュバーンが出ている。「マトリックス」のモーフィアス役でお馴染み。
配分を間違えると、主役どころか映画を喰ってしまうのだが、今回はちゃんとわき役やってた(笑)
「運び屋」:感想/ネタバレ有
「もう本作で監督やめます」と何回も言ってるイーストウッド御大。
この「辞める辞める詐欺」は、日本で言えば宮崎駿に通じるものがあるが、ファンとしては面白い作品が観えるから、むしろ大歓迎。
「家族を顧みず仕事ざんまい」と、映画を借りたイーストウッドの告白である。
「グラン・トリノ」に続き、イーストウッドの遺言的作品第二弾。ありがたく拝見しましょう。
「口は悪いがやることはやる」
のっけからメキシコ系移民への、かなりアレな言葉で始まる本作品。
言葉尻だけ捉えてしまうと、ただの差別発言なんだが、言われた側もニヤリと笑って「この〇カレ爺がw」てな感じなんですよね。
要は、口は悪いけどお互い信頼関係があるんですよ。この「人と人とがどうやって向き合うか」っていうのは、イーストウッド映画での変わらないテーマなんですよ。
言葉尻を捕らえる、相手の発言の揚げ足をとって「政治的正しさ」を主張したって何にも変わらない。やってることも、言ってることも無茶苦茶なんだけど、人を不愉快にしない、むしろなんだか温かい気分にさせてくれる、そんな不思議な魅力を持った人懐っこいハンサム爺。
昨今何かと窮屈な世の中になってきたが、「言葉」の正しさなんて証明のしようがないんじゃないかな?
皆さんの周りにもいるんじゃないか。口は悪いが、なんだかんだ言って面倒見のいい人。
反対に、言うことはいちいちごもっともで立派だけど、やってることはただの弱い者いじめなどうしようもない人。
そういった評価だって、身近で見て、その人がどういう人なのかちゃんと知ってるから思うわけだ。そういった「状況」や「言葉と行動が一致しているか」なんてのは、その人と接してなきゃわかんない。
そういったある意味「当たり前」の事を切り離して考えたら、そりゃ、あれよ、なんだか窮屈な世の中になるし、その割には、ちっともいい方向に進まんわけですよ。
「ポリティカルコネクト」=「社会的正しさ」そのものには、僕も賛成だ。ただし、その理念の「解釈」と「実行」においては、な~んか違和感がある。それこそ、黙って「実行」てなもんで、ネットで、あーだこーだ吠えていたってしょうもないわけだ。
いや、ネット云々ではなく、「言葉」の正しさを証明するには、「行動」を見なきゃならないけど、ネットの文章なんて「言葉」以外見ようがないからね。
言葉尻を捕らえたらただの「差別発言」なんだけど、このアール爺さん、劇中でひたすら、人と向き合っていく。なんだかんだ言って淡々と「行動」で自分の意見を語る。そうやって、自分が正しいと思ったことをひたすら、黙って(かなりキツイ皮肉は言うが)やっていく、そういった「行動」の映画なんじゃないかと。
「行動を伴わない言葉なんて、爺のカラオケ以下だぜ!」、とイーストウッドが言いたかったかどうかは知らないが、多分そんな映画。
真実は力があるが、時として意味を失う。
そんな風にひたすら「行動」で示すアール爺さん。
「自分の言いたいことは言うし、やりたいことはやる」スタンスを徹底している。
しかし、たとえ嘘偽りのない真実だって、時としては意味を失う。
元妻の臨終に駆け付けるアール。
妻はいう「あのお金はどうしたの?」
「実は高級ジゴロなんだよ」
「実は賞金稼ぎなんだ」
「本当は、麻薬組織の運び屋をやって稼いだ。今も車の中には350kg積んである」
二回ジョークを飛ばした後、本当のことを言うアール。しかし、信じない妻。
このシーンがいいんだな!涙腺崩壊。
時として「言葉」じゃなんにも伝わらないんだよ。けれど、確かに伝わっているものがある。
このシーンだけでも、本作を観てよかったと思う。
「俺のようになるな」ただし、反省はあんまりしてない。
そんなアールを追っかけるコリン捜査官も、多忙のあまり現在進行形で妻をないがしろにしている。追う側と追われる側、ダイナーで出会った二人。
自分の事は棚にあげて、コリン説教するアール。
「俺のようになっちゃいかん」と、まさに「おまいう」なんだけど、言ってることは正しい。と言うよりは、言葉を超えた説得力がある。この二人の男の駆け引きが熱い。
最後に、逆光を浴びながらのシーン。暗闇に沈んだイーストウッドと、明るい日の光の中のブラッドリー・クーパーのシーンが凄く印象的。
「光あふれる表街道を歩む男」と「闇に沈んだ男」の明暗。
若い間に妻との関係を修復した男と、最後に間に合った男。
まだ人生これからの男と、老いた男。
そういった様々な要素を対比させた傑作シーン。いや、痺れたね。
反省してるけど、後悔はしてない。
そんな風にひたすら、イーストウッド演じるアールが、「ぶらり世直し旅」する映画化と言えばそうではなく、この爺さん、あんまり反省してない(笑)
いや反省してないと言いますか「アレとコレは別会計」で、きっちり人生を楽しんでいる。
「運び屋」稼業なんてハードなもんに着いた割には、のっけから運転しながら「カラオケ」三昧。もう、ノリノリで歌う。
「これは楽しいドライブなんだ」と、往年の名曲をハンドル叩きながら熱唱。
「それはそれ、これはこれ」とばかりの開き直りっぷり。いや、多分アールの爺さんのが正しいな、うん。
そんな風に、カラオケしながら、ハードなお仕事達成。なぜかボスにも気に入られて屋敷に招かれる始末。「この屋敷を建てるために何人殺した」なんてブラックジョークをボスの前でかます。肝が据わっているのか、バカなのか(笑)
そこで待っていた、酒池肉林と言いますか「尻、尻、尻、美尻」のこの世の楽園(笑)
爺、3Pでハッスル♪
ぜってー反省してないだろ!
この「ビキニのねーちゃんがヤッホーい!」のシーン。そんなに長いシーンでもないのだが、これを撮った奴は重度の「尻好き」。画面から「俺は尻が好きなんだ」「お尻はこんなにも素晴らしいんだ!」と伝わってくる映像は久しぶりに観た。なに?この熱さ……。
イーストウッドの趣味なのか?
「イーストウッドは尻派である」こういった疑問に答えを出すために、もう一度イーストウッドの監督作品を観返そうかな……と、思ったが「ミリオンダラー・ベイビー」はもう一回観る勇気がない。いい映画なんだけどね。
この作品は、友達に「女の子がボクサーに憧れてひたむきに頑張る映画だよ♪」と言われて観たら酷い目にあった。(※友達は嘘は言ってない)
そういえば「父親たちの星条旗」も「アメリカンスナイパー」もけっこう精神に「くる」映画だからなぁー……「尻」って出てきたっけ?
「尻」はともかくとして、本作は、イーストウッド監督作品の中では、比較的後味がいい作品だったかな。
総評・感想まとめ
総評:♡♡♡♡♡♡♡♡ 8/10
【よかったところ】
・明暗の使い方。
・音楽の使い方。
【わるかったところ】
・特になし。
●雑多な感想
・影が薄いのか濃いのか分からないローレンス・フィッシュバーン
・いいケツ。撮った奴は尻派だということが映像から伝わってくる。
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